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抗がん剤治療のメリット・デメリット

がん治療における三大療法の一つとして知られる抗がん剤治療(化学療法)。その進歩は目覚ましく、多くのがん患者さんの希望の光となっています。しかし、その効果の裏側には、避けては通れない副作用という側面も存在します。

本記事では、抗がん剤治療がもたらす「メリット(効果)」と「デメリット(副作用)」について、多角的な視点から4000字で徹底的に解説します。治療を選択する上での一助となれば幸いです。


第1章:抗がん剤とは何か?~進化するがんとの闘い~

抗がん剤とは、がん細胞の増殖を抑制したり、がん細胞そのものを破壊したりする効果を持つ薬剤の総称です。手術や放射線治療ががんのある特定の部位を狙う「局所療法」であるのに対し、抗がん剤は血液の流れに乗って全身に行き渡るため、「全身療法」に位置づけられます。これにより、目に見えない微小ながん細胞や、すでに他の臓器に転移してしまったがんにも効果を発揮することが可能です。

かつて「抗がん剤」といえば、細胞分裂が活発な細胞を無差別に攻撃する「殺細胞性抗がん剤」が主流でした。[3] しかし、近年の医学の進歩により、がん細胞の持つ特有の性質(分子)を狙い撃ちする「分子標的薬」、さらには人間が本来持つ免疫の力を利用してがんを攻撃する「免疫チェックポイント阻害薬」など、新しいタイプの薬剤が次々と登場し、治療の選択肢は大きく広がっています。これに加え、特定のホルモンの影響を受けて増殖するタイプのがんに対しては、「ホルモン療法(内分泌療法)」も有効な選択肢となります。

このように、一口に抗がん剤と言ってもその種類は多岐にわたり、がんの種類や進行度、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な薬剤が選択されます。

第2章:抗がん剤治療の多岐にわたるメリット

抗がん剤治療は、その目的によって様々な役割を担い、患者さんに大きな恩恵をもたらします。

1. がんの治癒を目指す

白血病や悪性リンパ腫などの血液がんの一部や、精巣がん、絨毛がんなど、抗がん剤が非常によく効くタイプのがんでは、抗がん剤治療だけで完治を目指すことが可能です。また、他のがんであっても、手術や放射線治療と組み合わせることで、治癒率を大幅に向上させることが分かっています。

2. 延命とがんの進行抑制

手術による根治が難しい進行・再発がんの場合でも、抗がん剤治療によってがんの増殖を抑え、進行を遅らせることで、延命効果が期待できます。近年登場した分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は、特定のがん種において劇的な効果を示し、長期生存を可能にするケースも増えています。

3. 再発・転移の予防

手術で目に見えるがんをすべて取り除いたとしても、画像検査では捉えきれない微小ながん細胞が体内に残っている可能性があります。 これらの細胞が将来的に再発や転移の原因となるのを防ぐ目的で、手術後に行われるのが「術後補助化学療法」です。[1][3] 全身に作用する抗がん剤によって、これらの微小ながんを叩くことで、再発リスクを低減させることができます。[3]

4. 手術を可能にする、または手術の負担を軽減する

腫瘍が大きすぎて手術が困難な場合や、重要な臓器にがんが及んでいる場合に、手術前に抗がん剤治療を行うことがあります。[5] これを「術前補助化学療法」と呼びます。抗がん剤によってがんを小さくすることで、手術が可能になったり、より小さな切除範囲で済むようになったりするメリットがあります。

5. がんによる症状の緩和

抗がん剤治療の目的は、がんを治すことだけではありません。がんが大きくなることによって引き起こされる痛み、息苦しさ、食欲不振といった様々なつらい症状を和らげることも、重要な役割の一つです。[1] これは「緩和的化学療法」と呼ばれ、患者さんのQOL(生活の質)を維持・向上させる上で非常に大きな意味を持ちます。

6. 全身に広がったがんへの効果

血液がんや、すでに複数の臓器に転移しているがんなど、全身に病変が広がっている場合、局所療法である手術や放射線治療だけでは対応が困難です。 抗がん剤は血流に乗って全身を巡るため、このような広範囲に及ぶがんに対しても治療効果が期待できる唯一の方法と言えます。


第3章:避けては通れないデメリット(副作用)とその対策

抗がん剤治療の大きな課題は、その副作用です。特に従来の殺細胞性抗がん剤は、がん細胞だけでなく、分裂が活発な正常細胞にもダメージを与えてしまうため、様々な副作用が現れます。

1. なぜ副作用は起こるのか?

私たちの体の中では、髪の毛の細胞(毛母細胞)、口や消化管の粘膜、血液を作り出す骨髄の細胞などが、がん細胞と同じように活発に分裂を繰り返しています。殺細胞性抗がん剤は、この「活発に分裂する」という性質を目印に攻撃するため、これらの正常な細胞も一緒にダメージを受けてしまうのです。

一方、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は、より選択的にがん細胞を狙うため、従来の抗がん剤とは異なる種類の副作用が現れることが特徴です。

2. 主な副作用の種類

【殺細胞性抗がん剤に多く見られる副作用】

  • 骨髄抑制: 血液細胞(白血球、赤血球、血小板)が作られる骨髄の機能が低下します。[3]
    • 白血球減少: 感染症にかかりやすくなります。発熱や寒気は重要なサインです。[3]
    • 赤血球減少(貧血): めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、倦怠感などが現れます。
    • 血小板減少: 血が止まりにくくなり、鼻血や歯茎からの出血、青あざができやすくなります。
  • 消化器症状:
    • 吐き気・嘔吐: 最もつらい副作用の一つですが、近年では非常に効果の高い吐き気止め(制吐剤)が登場し、かなりコントロールできるようになっています。
    • 口内炎: 口の中の粘膜が荒れ、痛みで食事が摂りにくくなることがあります。
    • 下痢・便秘: 腸の粘膜がダメージを受けることで起こります。
  • 脱毛: 毛母細胞がダメージを受けることで髪の毛が抜けます。治療が終了すれば再び生えてくることがほとんどですが、精神的な苦痛は大きい副作用です。
  • 倦怠感: 体がだるく、疲れやすい状態が続きます。
  • 末梢神経障害: 手足のしびれや痛み、感覚の鈍化などが起こります。

【分子標的薬に特有の副作用】

分子標的薬は狙う分子によって副作用が異なりますが、以下のようなものが代表的です。

  • 皮膚障害: にきびのような発疹、皮膚の乾燥、かゆみ、爪の周りの炎症などが高頻度で見られます。
  • 高血圧
  • 下痢
  • 間質性肺炎: 命に関わることもある重篤な副作用です。

【免疫チェックポイント阻害薬に特有の副作用】

免疫のブレーキを外すという作用機序から、免疫が働きすぎて正常な細胞を攻撃してしまう「免疫関連有害事象(irAE)」と呼ばれる独特の副作用が起こります。全身のあらゆる臓器に起こる可能性があり、注意が必要です。

  • 皮膚障害: 発疹やかゆみ
  • 消化管障害: 下痢や大腸炎
  • 肝機能障害
  • 内分泌障害: 甲状腺機能異常や1型糖尿病など
  • 間質性肺炎
  • 重症筋無力症、心筋炎

【ホルモン療法に特有の副作用】

女性ホルモンや男性ホルモンの働きを抑えるため、更年期障害に似た症状が出ることがあります。

  • ほてり、のぼせ、発汗
  • 関節痛
  • 性機能障害
  • 骨粗しょう症のリスク上昇

3. 長期的な影響とその他のデメリット

  • 心毒性・腎毒性: 薬剤によっては、心臓や腎臓に長期的なダメージを与えることがあります。
  • 二次がん: 治療によって、数年後に別の種類のがんが発生するリスクがわずかに高まることがあります。
  • 不妊: 生殖細胞がダメージを受け、将来子どもを持つことが難しくなる可能性があります。
  • 薬剤耐性: 長期間抗がん剤を使用していると、がん細胞が薬剤に対して抵抗性を持ち、効果がなくなることがあります。
  • 精神的・社会的な負担: 副作用のつらさ、外見の変化(脱毛など)によるストレス、治療と仕事の両立の難しさなど、精神的・社会的な負担も大きなデメリットです。
  • 経済的な負担: 特に新しい薬剤は高額になることがあり、経済的な負担は無視できません。 がん治療による経済的負担は「経済毒性」とも呼ばれ、患者さんとその家族に大きな影響を与えます。

第4章:デメリットを乗り越えるために~進歩する支持療法~

かつては「抗がん剤治療はつらいもの」というイメージが強かったですが、現在では副作用を予防したり、症状を和らげたりするための「支持療法」が大きく進歩しています。

  • 制吐剤(吐き気止め): 作用の異なる複数の薬剤を組み合わせることで、多くの患者さんで吐き気をコントロールできるようになりました。
  • G-CSF製剤: 白血球の減少が予測される場合に、白血球を増やすこの薬を予防的に投与することで、重篤な感染症のリスクを下げることができます。
  • 口腔ケア: 専門的な口腔ケアを行うことで、口内炎の予防や悪化を防ぎます。
  • 皮膚ケア: 分子標的薬による皮膚障害に対しては、保湿剤やステロイド外用薬などを用いた早期からのスキンケアが重要です。

支持療法の発達により、患者さんは以前よりもQOLを保ちながら治療を続けられるようになっています。[26] 副作用は我慢するものではなく、つらい症状があればすぐに医師や看護師、薬剤師に相談し、適切な対処を受けることが大切です。


おわりに

抗がん剤治療は、がんを克服し、あるいはがんと共に生きていく上で、非常に強力な武器です。そのメリットは計り知れないものがありますが、同時に様々なデメリット(副作用)を伴うことも事実です。

重要なのは、これらのメリットとデメリットを正しく理解し、ご自身の病状やライフスタイル、価値観などを踏まえた上で、主治医と十分に話し合い、納得して治療法を選択することです。

近年、がんゲノム医療の進展により、個々のがんの遺伝子情報に基づいて最適な薬剤を選択する「個別化医療(プレシジョン・メディシン)」も現実のものとなりつつあります。これにより、治療効果を最大化し、副作用を最小限に抑えることが期待されています。

抗がん剤治療は、日進月歩で進化を続けています。正確な情報を得て、医療チームと手を取り合いながら、希望を持ってがんと向き合っていくことが、何よりも大切と言えるでしょう。

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